エッセイ集『光の小箱』
これまでとこれからを祝福する
母となって見つめた子どもの記憶、自らの子ども時代の記憶、タンポポやシロツメクサの花冠を編むように、ひとつひとつの温かな記憶を紡いで一冊とした。(「あとがき」より抜粋)
娘が二歳を少し過ぎたころ、自転車の補助席に乗せて、道を走っていた時だ。娘はいきなり、小さな人差し指を高々と上げて、空を指差し、「そら!」、「そら!」と叫んだ。それはそれはとてもうれしそうに。
どうやって、子は、目の前にある「コップ」を「コップ」と、自分が座っている「椅子」を「椅子」と、外に出て、見上げる広い青いものを、「空」と認識するのだろうか。人間の成長の内側で、「ことば」と「事物」がしっかりと認識されるプロセスは、とても不思議だ。
思わず、その声に導かれて、私は「空」を見上げた。「ああ、空だ」。何の混じりけもないまっさらな素直な気持ちでそう思った。そして、うれしさがこみ上げてきた。ことばにして確かに事物が存在する、という安心感、今、娘と二人、「空」を見ていることの、何とも言えない幸福感に胸がすっと温かくなった。あたりまえに存在すると思っていることは、本当はあたりまえではなく、小さな奇跡の積み重ねなのだ。忙しない日常に追われて、少し疲れていた私の目に入り込んできた、澄んだ青空の清々しさは、今も忘れられない。
(「空の下で」より抜粋) (七月堂HPより引用)
七月堂刊 2023年6月
試論集『十三人の詩徒』
「ここに登場する13人の詩人はもうこの世にはいない。それでも私たちは彼らの作品と共に生きていることを明かしてくれる貴重な視線がここに在る。」(七月堂HPより引用)
「今、ことばは、どこへ向かおうとしているのか。いつの時代にも、転換期と呼ばれる事象が、私たちの生へと揺さぶりをかける時、必ずや唇に上ってくる問いかけだ。そして、明確な答えは、いつも見えない。私たちは、問うことの自由にたゆたいながら、時代の波打ち際で仄見える光を、ことばを探り続けるだけだ」与謝野晶子冒頭より
七月堂刊 2021年8月
絵本『てのひらいっぱい あったらいいな』
文 神泉 薫 絵 網中いづる
広げた手のひらの上に、大好きな物がいっぱいあったらいいな───そんな思いを描いたこの絵本、…好きな物が何かは、子どもそれぞれ、十人十色。石ころ、葉っぱ、きれいな紐など、おとなが見過ごしがちな物でも、彼ら彼女らにとっては、自分だけの宝物です。(絵本のたのしみ、折り込みふろくより)
こどものとも 年少版 福音館書店 2020年1月号
詩集『白であるから』
「ことばのない/祈りのように」
「神泉薫のことば世界はしなやかな翼を広げ未来へ飛び立とうとしている。
初めての大地に足をおろす「君」、「わたくしの背中を熱く 昇る太古の血」、自在な視線は生命の瞬間を静かに受け止めてゆく。」(七月堂HPより引用)
第4詩集/神泉 薫名義 七月堂刊 2019年4月
絵本『ふわふわ ふー』
文 神泉 薫 絵 三溝美知子
風に飛んでいくたんぽぽの綿毛、ぴょんとはねるうさぎ、ふわっと泡立てたクリームのケーキ……。思わずさわりたくなる"ふわふわ"がテーマの絵本です。細密なタッチでありながら、温もりや安心感をあたえる絵本は、はじめて絵本にふれる赤ちゃんにぴったりです。(絵本のたのしみ、折り込みふろくより)
こどものとも 0.1.2.福音館書店 2014年5月号
詩集『あおい、母』
平成24年度茨城文学賞詩部門受賞
──そこにいたの?
──いつもいるんだね──
そうだ。翼を傷めた小鳥たちを凍える風からかばわねばならないから。
旅立つ小鳥たちが未知の光の方へと羽搏くのを見送らなければならない。
その囀りが歓びの声であることを信じなければならない。
第3詩集/神泉 薫名義 書肆山田刊 2012年7月
詩集『十字路』
十字路に立つ。
人は
どの道を行くのか──。
未来がひらかれる。
音もなく。
ひらかれずにはいない。
ときには
鋭い破裂音とともに。
第2詩集/中村恵美名義 書肆山田刊 2005年3月
詩集『火よ!』
旅人はザックに光を抱えている。彼の内面は深い闇に包まれている……
闇の底に柔らかな火が芽生え、彼を旅立ちへとうながす。
第1詩集/中村恵美名義 書肆山田刊 2002年3月